ナミエシンカ(住友商事株式会社)

半年ごとに作品を入れ替えられる柔軟性は、本当に相性が良かった

2026.01.05

福島県浪江町。東日本大震災と原子力災害からの復興が続くこの町に、トレーラーハウスを活用したコワーキングスペース「ナミエシンカ」があります。ここは単なる働く場所ではなく、「新しい浪江町をつくっていくための場」であり、「仕組み」でもあります。
空間づくりを支える複数の要素のひとつとして、アートが自然に溶け込んでいます。なぜ復興や地方創生の文脈で、アートという選択肢が生まれたのでしょうか。ナミエシンカの企画・運営に関わる住友商事の西野様にお話を伺いました。

(上記画像:「深層に何が映るのか - 内と外が交わる時 -」/ 志水みかん )

「復興の現場から生まれた、ナミエシンカという場所」

Q1. ナミエシンカは、どのような経緯で生まれた場所なのでしょうか?

ナミエシンカの始まりは、本当に偶然でした。当社の社員と浪江町役場の方が海外でたまたま知り合って、震災と原子力災害からの復興や、水素を活用したまちづくりに挑戦していることを知ったんです。

そこから当社の水素事業の関係者やMIRAI LAB PALETTEと共に町と協議を進め、「水素利活用」と「まちづくり」に関する連携協定を結びました。浪江駅周辺の整備計画へのご支援も含め、復興を支えるプロジェクトが本格的に動き出しました。

ナミエシンカという名前は、このコワーキングスペースと、当社の復興まちづくりの支援施策全体を指すプロジェクト名でもあります。

「natural #5」/ 湯浅実奈「natural #5」/ 湯浅実奈
「natural #5」/ 湯浅実奈

【「まずはホッとできる場所をつくりたかった」──空間づくりとアート導入の原点】

Q2. ナミエシンカの空間づくりでは、どんなことを最初に大切にされていたのでしょうか?

当時の浪江町には、気軽に過ごせる第三の場所がほとんどありませんでした。家と職場の往復になってしまって、息がつまるという声もよく聞かれました。

だからまず、ホッとできる場所をつくることが必要だと思ったんです。コーヒーを飲んだり、本を読んだり、ちょっと息抜きできるような場所ですね。

復興事業の進捗によって町の計画はどんどん変わるので、固定の建物だと対応しづらい。そこで、移動できるトレーラーハウスを採用しました。場所が変わったら、そのまま移動すればいい。

インテリアもこだわって選びましたが、やっぱり絵が一つ二つあるだけで雰囲気が変わる。そういう流れで、自然とアートが入っていったんです。

住友商事株式会社 西野修一朗様
ナミエシンカの企画・運営に関わる住友商事の西野様。同社が運営する「MIRAI LAB PALETTE」にてお話を伺いました。

【アート選定で大事にしていること──有名である必要はない】

Q3. アート選定で大事にしていることは何ですか?

有名なアーティストの作品を展示したい、という思いは全くなくて、むしろ地域や環境、人との関係性を意識して創作している方とご一緒したいと思っていて、毎回そうした視点でご提案いただいています。

一方で、アートを説明しすぎることは避けています。大きなストーリー掲示や細かい解説を置くよりも、まずはぱっと見て心地いいと感じてもらうことが大事。運営スタッフには、シンカをご利用いただくメンバーの皆さまに対して、「これ、いいですよね」くらいの自然なスタンスで触れてもらう感じでいい、と伝えています。

ただ、さらに興味を持って聞いてくれるメンバーの方もいるので、もう少しストーリーを伝えられる仕掛けはあってもいいな、とも思っています。

(左から)請戸海岸(浪江), コレクティブ・イメージ/請戸海岸(浪江) / 折田千秋
(左から)請戸海岸(浪江), コレクティブ・イメージ/請戸海岸(浪江) / 折田千秋
住民との対話やワークショップを通して紡がれた記憶をもとに制作された作品。場所の過去と現在をつなぐストーリーが込められている。

【展示後に起きた変化──数字には出ないが、空気は確実に変わった】

Q4.  アートを展示してから、利用者や場の空気にどのような変化がありましたか?

浪江町は変化のスピードが早いですし、アートだけの効果を数字で測るのは正直難しいです。ただ、アートがあることで、空間全体のバランスが保たれている感じはあります。

家具、本、香り、音楽、そしてアート。それらが全部合わさって、『リビングのような雰囲気』は出せているのかなと思っています。アートがなかったら寂しいでしょうし、この空間にこれだけ作品が入っているのは、すごく贅沢ですよね。

実際に、寝転がって本を読む方がいたり、ふらっと立ち寄ってくださる住民の方がいたり、当初イメージしていたよりも多様な使われ方が生まれています。

アートが劇的に何かを変えるというより、5年、10年というスパンでじわじわ効いてくるものだと思っています。

Let your hope shine / Kumiko Miyoshi
Let your hope shine / Kumiko Miyoshi

【変化に対応できる「レンタル」という選択肢】

Q5.地方創生や場づくりの中で、なぜ「レンタルアート」という仕組みがフィットしたのでしょうか?

施設運営のしやすさはもちろんですが、地方における公共事業においては、レンタルであるメリットが本当に大きい。会計年度や予算の制約がある中で、作品を購入してアートを「資産」として抱えてしまうと、どうしてもフットワークが重くなる。

でもレンタルなら、「まずやってみて、合わなければ変えられる」。この軽さは地方の現場では相当重要なんです。

ナミエシンカも変化し続けるプロジェクトなので、利用者層も町の状況もどんどん変わっていきます。半年ごとに作品を入れ替えられる柔軟性は、本当に相性が良かったと思います。

「SPECTRUM LANDSCAPE 2.3-2.4」/ 菊地虹
「SPECTRUM LANDSCAPE 2.3-2.4」/ 菊地虹

【「ここで過ごしたい」と思わせるために、アートができること】

Q6. 場づくりにおいて、アートはどんな役割を果たしていると感じていますか?

第3の場所って、極端な話、なくても生きていける場所です。だからこそ、居心地がいいかどうかがすべて。単に箱や機能を揃えるだけでは、人は来てくれません。

本当に大事なのは『ここで過ごしたいと思えるかどうか』。その点で、アートは空間を一段引き上げてくれる、とても象徴的な要素だと思っています。

もちろん、アートだけで何かが解決するわけじゃありません。でも、アートがあることで初めて成立する空間がある。浪江に『ここで一息つこう』と思える場所が一つ増えるなら、導入する価値は十分にあると思っています。

帰還 3   the return 3 / 藤本英明
帰還 3   the return 3 / 藤本英明
住友商事株式会社 西野修一朗様